にちじょう。えそら。

この度、日常とエソラが合体!創作もします。アニメ、漫画、アーティストさんの話します。ごゆっくり見ていってください!

第二十九話 記憶の欠片

「ここ、卓斗を託したときに来た以来だわ」

「そうだったんだ、先に俺が死んでお前にすべて任せてしまったな」

「今更いいわよ、あの時はもう死ぬって思って何もかも投げ出したくなっちゃった」

「…」

 

俺はこの二人を残して、なんで死んだんだろう。

でも、二人のやり取りを聞いてなんだか懐かしくなった。

「ふと思い出したんだけど、二人ってよくケンカしてたイメージ、でも仲直りするときは今みたいに、母さんがはいはいって感じで収まってたね」

「よくケンカしてたっけ?そんな姿ばっかり見せちゃって恥ずかしい」

「父親の俺がもっと健康だったらな、すぐ不機嫌になって、すまん」

「もーいいってば!」

「おかえり!卓斗くん!」

 

声のする方へ顔を向けるとみどりさんがいた。

ふいに昔の面影と重なる。前にもこんな風に出迎えてくれたっけ。

 

「もしかして、みどりさんって俺の近所に住んでた?」

「お!思い出してくれたの!?だったら、く…」

「そっか、母さんがいないときにご飯食べさせてくれたっけ、だから懐かしい味なのか。でもどうして黙ってたんだ?」

「自然に思い出してほしかったから、なーんて覚えてないと思って」

「みどりちゃん久しぶりね、あの時は卓斗のこと面倒見てくれてありがとう」

「お久しぶりです!いーえ!弟ができたみたいで嬉しかったですよ!二人とも元気に生き返って良かった!」

 

みどりさんの家の近くに俺の家があるんだな。

といことは、黄泉犬になってしまったチャイとも遊んだことがあったのか??

そこまではまだ思い出せない。

それから家族の話をまだまだしながら、隊長のもとへ向かった。

 

「隊長!ただいま戻りました!」

「ご苦労様だったな、というか良かったな」

「はい!お気遣いいただきありがとうございます」

「なーんか、卓斗くんの敬語新鮮で面白いね」

梓さんがちゃちゃを入れる。

俺はむっとした表情を向ける。

「なにはともあれ、卓斗くんのご家族が見つかり、記憶も回復しているようだな。もっと回復するためにはやっぱり一緒にいた方がいい。仕事以外ではおうちに帰るように!いいな?」

「はい!」

「…あの」

母が声を出す。

「今回は、息子を預かって頂いてありがとうございます。本当にご迷惑をかけました」

「いえ、丁度人手が足りなかったし、winwinですよ」

「俺からも妻がご面倒おかけしました」

「いいえ!はい、この話はおしまいにしましょう、さあ暖かい我が家をまた作ってください」

「ありがとうございます」

母が涙を流した。胸が締め付けられた。

 

持ち帰る荷物の準備をする。

あ、そういえば、くるみに何も言ってない。声かけないと。

 

コンコンッ

「くるみー!いるか?」

返事はない。ドアノブを回してみる。

ガチャと音を立てて、扉は開いた。

「いないのか」

どこいったんだろう。家族の話ばかりで俺だけ嬉しがってて、くるみには申し訳なかったな、お礼すら言えてなかった。

自室に戻って準備の続きをする。

今回俺が思い出したこと。

 

・両親

→よくケンカしてた、でも母が許す形で仲直りする

→父さんは病弱

・みどりさんは近所のお姉ちゃん

→母さんに代わってご飯を作ってくれた

→チャイと俺は接触ありでも少しの時間だけ(記憶にはない)

 

一日にこれだけ記憶が回復した。

今までは一日にあるかないかだったのに。

後は、俺がなぜ死んだことぐらいかな思い出せないのは…

 

***********

卓斗さんのことだから、きっと私の部屋を訪ねてくる。

今日、心配させてしまったことを話しに来るかもしれない。

家族のほうに意識が行ってしまったけど、部屋に帰ればいったん冷静になるから。

でも、こんな顔見せられるわけなかった。

今日から一緒の屋根の下で暮らせなくなる。

ご飯を一緒に食べられなくなる。

会話することが業務以外で少なくなる。

なんだか減ることばかりだ。

でも、悲しいことはこれだけじゃない。

何が足りないんだろう。

だが、まだ切り札はある…