「ここ、卓斗を託したときに来た以来だわ」
「そうだったんだ、先に俺が死んでお前にすべて任せてしまったな」
「今更いいわよ、あの時はもう死ぬって思って何もかも投げ出したくなっちゃった」
「…」
俺はこの二人を残して、なんで死んだんだろう。
でも、二人のやり取りを聞いてなんだか懐かしくなった。
「ふと思い出したんだけど、二人ってよくケンカしてたイメージ、でも仲直りするときは今みたいに、母さんがはいはいって感じで収まってたね」
「よくケンカしてたっけ?そんな姿ばっかり見せちゃって恥ずかしい」
「父親の俺がもっと健康だったらな、すぐ不機嫌になって、すまん」
「もーいいってば!」
「おかえり!卓斗くん!」
声のする方へ顔を向けるとみどりさんがいた。
ふいに昔の面影と重なる。前にもこんな風に出迎えてくれたっけ。
「もしかして、みどりさんって俺の近所に住んでた?」
「お!思い出してくれたの!?だったら、く…」
「そっか、母さんがいないときにご飯食べさせてくれたっけ、だから懐かしい味なのか。でもどうして黙ってたんだ?」
「自然に思い出してほしかったから、なーんて覚えてないと思って」
「みどりちゃん久しぶりね、あの時は卓斗のこと面倒見てくれてありがとう」
「お久しぶりです!いーえ!弟ができたみたいで嬉しかったですよ!二人とも元気に生き返って良かった!」
みどりさんの家の近くに俺の家があるんだな。
といことは、黄泉犬になってしまったチャイとも遊んだことがあったのか??
そこまではまだ思い出せない。
それから家族の話をまだまだしながら、隊長のもとへ向かった。
「隊長!ただいま戻りました!」
「ご苦労様だったな、というか良かったな」
「はい!お気遣いいただきありがとうございます」
「なーんか、卓斗くんの敬語新鮮で面白いね」
梓さんがちゃちゃを入れる。
俺はむっとした表情を向ける。
「なにはともあれ、卓斗くんのご家族が見つかり、記憶も回復しているようだな。もっと回復するためにはやっぱり一緒にいた方がいい。仕事以外ではおうちに帰るように!いいな?」
「はい!」
「…あの」
母が声を出す。
「今回は、息子を預かって頂いてありがとうございます。本当にご迷惑をかけました」
「いえ、丁度人手が足りなかったし、winwinですよ」
「俺からも妻がご面倒おかけしました」
「いいえ!はい、この話はおしまいにしましょう、さあ暖かい我が家をまた作ってください」
「ありがとうございます」
母が涙を流した。胸が締め付けられた。
持ち帰る荷物の準備をする。
あ、そういえば、くるみに何も言ってない。声かけないと。
コンコンッ
「くるみー!いるか?」
返事はない。ドアノブを回してみる。
ガチャと音を立てて、扉は開いた。
「いないのか」
どこいったんだろう。家族の話ばかりで俺だけ嬉しがってて、くるみには申し訳なかったな、お礼すら言えてなかった。
自室に戻って準備の続きをする。
今回俺が思い出したこと。
・両親
→よくケンカしてた、でも母が許す形で仲直りする
→父さんは病弱
・みどりさんは近所のお姉ちゃん
→母さんに代わってご飯を作ってくれた
→チャイと俺は接触ありでも少しの時間だけ(記憶にはない)
一日にこれだけ記憶が回復した。
今までは一日にあるかないかだったのに。
後は、俺がなぜ死んだことぐらいかな思い出せないのは…
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卓斗さんのことだから、きっと私の部屋を訪ねてくる。
今日、心配させてしまったことを話しに来るかもしれない。
家族のほうに意識が行ってしまったけど、部屋に帰ればいったん冷静になるから。
でも、こんな顔見せられるわけなかった。
今日から一緒の屋根の下で暮らせなくなる。
ご飯を一緒に食べられなくなる。
会話することが業務以外で少なくなる。
なんだか減ることばかりだ。
でも、悲しいことはこれだけじゃない。
何が足りないんだろう。
だが、まだ切り札はある…