―見学当日。
深呼吸してから入り口をくぐる。
(立派な会社だ…緊張する…)
そう思いながら、梓から教えられた住所の通り6階へ向かう。
そして扉の前、また深呼吸してからの扉をたたく。
―コンコンッ
「どうぞ」
中から声がした。
「失礼します…」
扉をゆっくりと開けると初めましてのお顔が。
「おはよう!卓斗くん」
「待ってたよ、卓斗くん」
「おはようございます」
(梓さんとまだ名前を知らない方二人。だけど、俺の名前は憶えてくれたみたい)
「お、おはようございますっ!」
ぎこちないながらも、元気いっぱいに挨拶した。
「今日は見学させていただき、ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそお越しいただき、ありがとう!あ、紹介がまだだったね。俺はこの黄泉がえりの隊長、竜也だ、よろしくな!」
「よろしくお願いします!」
がっちりと握手する。少し痛いのか顔をゆがめる卓斗。
「僕は…シン…です、よろ…しく」
「こっちはすまんな、あまり話せないから許してな」
「いえ!よろしくお願いします!シンさん!」
卓斗から手を差し伸べると、驚いた顔をしたが、シンはすぐに微笑んで握手した。
「立ち話もなんだから、座ってゆっくりしようか」
「はい!ありがとうございます」
「緊急に依頼が入ったら忙しくなっちゃうんだけど、今日はまだ依頼はないからゆっくり見学できるよ」
「そうなんですね…!活躍しているところも見たかった気持ちもありましたけど…」
「ははははは!!」
急に笑い出す隊長に、驚く卓斗。
「いやすまんすまん、素直な気持ちが聞けて良かったよ。いやーいつも暇人してるわけじゃないからな」
「いえいえ!そんなつもりで言ったわけではないっす!!」
「実際の映像がDVDにしてあるから、それでも見てみる?」
「そんなのあるんすか!?見てみたいです!!」
「よ~し決まり!ちょっと待ってね、準備するから」
目を輝かせる卓斗に、いいとこ魅せるぞと意気込む梓。
(かーわいいな、ほんとに純粋で!)
梓が部屋のレコーダーをいじって準備している間に、隊長が口を開く。
「卓斗くん、拳銃の腕前がすごいと聞いたよ。今度の大会も出るんだろ?」
「いえいえ、腕前はまだまだですよ。そうです!大会に向けて今練習しているんですけど、調子はいい感じです♪」
「すごいなぁ~後でちょっと見せてもらおうかな!このビルには訓練場が設備されているんだ」
「すごいっすね!!ぜひ!撃たせてください!」
「準備できました~」
そんなこんなでDVD再生の準備が整ったらしい。
「再生お願いします!」
「はい~じゃ再生するね」
―▶ピッ
黄泉がえりに密着した取材のテレビ放送だった。
最初は今日は取材宜しくお願いしますと和やかな空気から始まった。
通報の電話を隊長が取ったところから雰囲気が変わり、臨場感が溢れ出す。
流石に蘇った人の顔を映し出すことも声をそのまま出すこともなかったけど、現場の緊張感は伝わってきた。
隊長の叫ぶ声、梓の声が聞こえた。
そして、銃声が鳴り響いたときに体が思わず動いた。ここまで放送して大丈夫なのか。なんて考える暇もなく。
画面に釘付けだった。隊長や梓さんやシンさんが卓斗のことを見て何か話していたのも気づかないくらい。
−■ピッ(停止)
「視聴お疲れ様〜すごい見入ってたね」
「…はい」
言葉に出来ないくらい惹き込まれた。
沈黙している卓斗に対して、梓が困った表情で、何か声をかける前に
「…す、っごくかっこよかったです」
なんてそんな頭の悪い感想しか言えなかった。でも、それが本音らしい。
梓は驚いた顔をした。その後、微笑んで呟いた。
「それは良かった」
DVDを視聴したあとは、建物の見学。
地下は立入禁止。蘇った人が隔離されている場所だそうだ。
食堂、会議室、司令室。
個人の部屋もあるようだ。
…そして、訓練場。
他の隊員が練習をしていた。
「撃ってみるか?」
隊長が卓斗に聞いた。
「いいんですか!?」
「拳銃持ってこよう」
卓斗はドキドキだった。
目が輝いている姿を見て、梓とシンは微笑んだ。