にちじょう。えそら。

この度、日常とエソラが合体!創作もします。アニメ、漫画、アーティストさんの話します。ごゆっくり見ていってください!

第三十四話 あの時と…

帽子をかぶる男は何もしゃべらない。
「要求はなんだ?何のためにこんな騒ぎを起こしている」
隊長は男に言葉を投げかける。
(なんもしゃべらねぇな、いらいらする)
卓斗は不満を募らせていた。しゃべらずにただ拳銃だけ構える姿が奇妙だった。
「おい…何か言えよ!」
「卓斗、あまり刺激を…」
バキュイン!!
三人の目の前の地面に弾は当たった。
(な、なんなんだよ)
「すまんな。落ち着いて、何か言いたいことがあるんだろ、教えてくれ」
卓斗が与えてしまった刺激を和らげるように隊長は問いかけた。

卓斗は、今まで黄泉人と会ってきて、緊張することはあっても怖いと思うことはなかった。
黄泉人と生き続けてる人間。今、ここにいるには後者である。
同じ人間なのに、なぜこんなに恐怖が出てくるのか。
生きている人間が一番怖いんだ。
男は拳銃の向きを変えた。
(なんだ?)
そして、手招きをした。
拳銃はくるみの方に向いていた。
「人質を取ろうとしているのか!」
「人質なら俺が…」
「娘、来い」
やっと言葉を発した。
「はい」
くるみは一歩一歩、相手に近づいていった。
「くるみ…」
(どうすればいいんだ、このままくるみに行かせていいのか)
見ていることしかできない卓斗。
「隊長…このままでいいんですか」
小声で尋ねる。
「待て、チャンスがいつかやってくる」
待つしかないのか。卓斗は苦手だが、隊長の言葉を信じることにした。
くるみはもう男が立つ屋根上の真下にいた。
男は屋根上から飛び降りる。くるみはすかさず拳銃を構えた。
バンッ
男の左肩に当たった。
「ぅぐっ」
地面に倒れこむ。
「今だ!」
隊長の掛け声とともに卓斗は走り出した。
「む…娘、きさま…」
男は拳銃をまた構えた。くるみに向かって。
(待って、まだ撃つな!)
間に合わない!くるみが!
そこからはスローモーションに見えた。
くるみはただ男の拳銃をまっすぐに睨んでいた。
そしてくるみも拳銃をまた構えようとしたが
男がそれを撃ち、阻止した。拳銃は手から落ちて転がる。
くるみは一歩下がる。表情がゆがむ。
人の死と争いを何度も見たことあるからと言って、やはりくるみも子供だ。
自分の生死がかかってるときに動揺しないわけがない。
(俺も、あいつみたいに拳銃を跳ね飛ばそう!)
卓斗も拳銃を構え、相手の腕に向かって撃つ。

―バッキュン

しかし、その弾道は外れた。
「くそっ!」
一か八か。卓斗は受け身を取りながら、転がり込み、くるみの前に着地する。
間に合え!
卓斗が男を見たとき、まだ男は撃っていなかった。
―間に合った。
「卓斗さん‼」
―バキュィン

(いいんだ…これで)

 くるみをまた護れたなら…俺が死ぬことなんてどうだっていいさ。

今、こんな時に思い出したよ。

俺…あの時も死んだあの時も、お前を護って死んだんだ。